【実践コラム】経営管理ツールについて
不正確な試算表より正確な資金繰り表の方が効果的です
毎月の経営状況を正確に把握できる資料は「試算表」です。多くの経営者様は試算表を見て経営状況を把握し、日々の経営判断を行っています。しかし、その試算表が間違っていれば、それを見て下される経営判断も間違えてしまう可能性が高くなります。自社の管理状況を鑑みて、正確な試算表を作成するのが難しいと考えるならば、思い切って、もっと簡素な管理方法に切り替えるのもひとつの解決方法です。試算表ではなく資金繰り表です。
財務体質の強化に取り組んでいる関与先様の事例です。オブザーバーとして社内ミーティングに参加させていただきました。
ミーティングの参加者は、社長、取締役、経理担当者です。経理担当者が作成した試算表をベースに会議を行います。
経理担当者:先月の売上高は昨対比伸びましたが利益は減少しています。
社長:A社さんで値引きしたからじゃないかな。
取締役:いや、工場の人件費が増えたことが要因ではないか。
全員:うーん…
減益となった要因について1時間程議論がなされましたが、そもそもこの試算表には在庫が反映されていません。仕入額がそのまま原価となっており、先月68%だった原価率が今月は77%になっています。同社の平均原価率は70%ですので、今月は単純に仕入が多かっただけで、在庫を考慮すれば実際は増益だった可能性があります。
正確な試算表を作成するためには、会計に精通した人材を雇用したり、毎月棚卸を行ったりする必要があります。小規模企業にとっては負担が大きいため、同社のように不正確な試算表で経営判断を行っている社長様も多くいらっしゃるように感じます。もちろん、正確な試算表づくりに取り組むことが正しい姿ではありますが、その負担を考えると、正確な試算表づくりに固執せず、まずは、キャッシュの動きだけをシンプルにまとめた「資金繰り表」を経営管理ツールとするのも良さそうです。
企業が最も気をつけねばならないのは資金を切らすことです。
この点において、試算表よりも資金繰り表の方が、資金の動きが良く分かります。また、在庫、売掛、買掛、減価償却など、実態を把握しにくい項目は最初から考える必要はありませんので、作成も簡単です。管理体制がまだ整っていない企業様の場合、不正確な試算表を管理ツールとするより、正確な資金繰り表づくりから始めてみてはいかがでしょうか。