【経営コラム】人手不足時代の採用・定着戦略(その2)

「求人を出しても人が来ない」、「採用費用ばかりかかる」、「ようやく採用できたと思ったら、また辞めてしまった」人手不足に悩む中小企業経営者から、よく聞く話です。

前回は、人が採れない原因を「人手不足だから仕方がない」で片づけず、自社が求職者から選ばれる会社になっているかを考えました。しかし、もう一つ重要な問題があります。「苦労して採用した社員が、なぜ辞めてしまうのか?」ということです。人を採用することばかりに目を向けて、今いる社員が辞める原因を放置していないでしょうか。

穴の開いたバケツに水を入れていないか?例えば、社員30人の会社で、毎年5人が退職するとします。その穴を埋めるために5人採用しても、社員数は30人のままです。採用活動には求人広告費や紹介手数料がかかります。面接、入社手続き、教育にも時間と労力が必要です。ようやく仕事を覚えた社員が辞めれば、その経験やノウハウも失われます。残された社員の負担も増え、さらなる退職につながる可能性もあります。これは、まさに「穴の開いたバケツに水を入れ続けている」状態です。

もし退職者を5人から3人に減らせれば、同じ採用数でも社員数を増やせます。現状維持が目的なら、必要な補充採用も減らせます。採用を増やす前に、退職を減らす。この発想が、人手不足時代の中小企業経営には欠かせません。

社長は「本当の退職理由」を知っているか?社員が退職するとき、よく聞く理由があります。「家庭の事情で」、「新しい仕事に挑戦したい」、「一身上の都合で」もちろん、その言葉が本当の場合もあります。しかし、それだけで納得してよいのでしょうか。給与への不満、上司との人間関係、仕事量の偏り、評価への不信感、将来への不安。こうした問題が背景にあっても、退職する社員が社長にすべてを話すとは限りません。

ここで社長に質問です。「直近3年間で退職した社員について、その理由をどこまで把握していますか?」退職理由を本人の問題だけにしていると、会社側の改善点を見落とします。もちろん、すべての退職を防ぐことはできません。本人の希望や人生設計による前向きな退職もあります。重要なのは、「防げたかもしれない退職」を減らすことです。

■入社後90日間が定着の分かれ道

定着改善で特に注目したいのが、入社直後の対応です。採用面接では「丁寧に教えます」と説明していたのに、入社したら忙しくて誰も教えてくれない。仕事内容を十分に理解しないまま現場に配属され、何を期待されているのか分からない。こんな状態では、新入社員が不安になるのも当然です。入社後の最初の90日間は、仕事への理解と職場への信頼を築く重要な時期です。誰が仕事を教えるのか。最初の1か月で何を覚えてもらうのか。困ったときに誰へ相談すればよいのか。これらを明確にするだけでも、新入社員の不安を減らすことができます。「採用したら、あとは現場に任せる」では、定着は現場任せになってしまいます。

■社員は給与だけで辞めるのではない

給与が重要であることは間違いありません。しかし、給与を上げれば社員が辞めなくなる、という単純な話でもありません。自分の仕事が正当に評価されているか。頑張れば成長できるのか。上司は話を聞いてくれるか。この会社に将来性を感じられるか。社員は、こうしたことも見ています。

特に中小企業では、社長や管理職の日常的な言動が職場の雰囲気を大きく左右します。制度を整えることも大切ですが、その前に、「社員が安心して意見を言える会社になっているか」を確認する必要があります。

■定着改善は、社長の仕事である

退職が続くと、「最近の若い人は我慢が足りない」と考えたくなるかもしれません。しかし、それでは何も変わりません。社長が考えるべきなのは、「社員が辞めた理由」だけでなく、「社員が働き続けたいと思う理由を、わが社は提供できているか?」ということです。

退職者数、勤続年数、入社後1年以内の退職状況などを確認し、退職が多い部署や時期に共通点がないかを調べる。そして、改善できる問題から一つずつ手を打つ。これも立派な経営改善です。

人手不足時代に必要なのは、採用人数を増やすことだけではありません。「採った人が育ち、力を発揮し、長く働きたいと思う会社」をつくることです。採用力と定着力は、別々の問題ではありません。

次回は、給与や休日だけで大企業と競争するのではなく、中小企業ならではの強みを生かして、「求職者から選ばれ、社員からも選ばれ続ける会社」をどうつくるかについて考えます。