【経営コラム】事業立地の転換とは、戦う場所・戦い方の変更です。
「どこで戦うか」を変えれば、会社の未来は変わる
前回のコラムでは、「事業立地」とは工場や店舗の場所ではなく、「どの市場で、どの顧客に、どのような価値を提供して利益を生み出すのか」という経営の土俵を決めることだとお伝えしました。
では、実際に事業立地を見直すには、何から始めればよいのでしょうか。多くの経営者は、「新しい事業を始めなければならない」「大きな設備投資が必要なのではないか」と考えがちです。しかし、事業立地の転換とは、必ずしも新規事業への挑戦ではありません。むしろ、自社の強みが最も評価される市場へ、少しずつ軸足を移していくことです。
■そのために、まず取り組んでいただきたいのは、自社の仕事を「売上」ではなく「利益」と「付加価値」で整理することです。
・どの商品やサービスが利益を生んでいるのか。
・どの顧客との取引が会社に最も貢献しているのか。
・逆に、多くの時間と人手を使いながら利益がほとんど残らない仕事は何か。
こうした分析を行うと、自社が本当に力を入れるべき事業が見えてきます。
■次に考えたいのは、「なぜ、そのお客様は当社を選んでいるのか」という問いです。
・価格でしょうか。
・技術力でしょうか。
・品質でしょうか。
・スピードでしょうか。
・それとも、長年の信頼関係でしょうか。
意外なことに、多くの経営者が考えている強みと、お客様が評価している強みは一致していません。一度、主要なお客様に「当社を選ぶ理由は何ですか」と率直に聞いてみることをお勧めします。その答えの中に、自社が進むべき市場のヒントがあります。
■三つ目は、自社の強みがもっと高く評価される市場がないかを探すことです。
例えば、これまで地元企業向けに販売していた商品が、医療や介護、食品、半導体など別の業界では高い付加価値として評価されるかもしれません。あるいは、中小企業向けに提供していたサービスが、大企業や公共分野ではより高い価格で受け入れられる可能性もあります。
「今のお客様だけ」が市場ではありません。異業種への展開、新しい顧客層への提案、商圏の拡大など、市場を広く見渡すことで、新たな事業立地が見えてきます。その際、ぜひ活用していただきたいのが、地域金融機関、商工会議所、産業支援機関などのネットワークです。多くの経営者は、自社だけで新しい市場を探そうとします。しかし、自社だけで見える世界には限界があります。金融機関はさまざまな業種の企業と取引があり、商工会議所には異業種との接点があります。展示会やビジネスマッチング、産学連携なども、新たな市場との出会いの場になります。社外との接点を増やすことが、事業立地を変える第一歩になるのです。
もちろん、事業立地の転換は一度に進める必要はありません。現在の事業を続けながら、新しい市場で小さく試してみることが大切です。新しい顧客を一社開拓する。新しい業界向けの商品を一つ提案してみる。展示会へ出展して市場の反応を見る。こうした小さな挑戦を積み重ねることで、「この市場なら勝負できる」という確信が生まれます。
大切なのは、最初から正解を探そうとしないことです。市場は机の上で分析するだけでは分かりません。実際にお客様と対話し、提案し、改善を繰り返す中で、自社に合った事業立地が形づくられていきます。
これからの時代は、人口減少、人手不足、デジタル化、AIの普及などにより、市場環境がこれまで以上のスピードで変化していきます。昨日まで利益が出ていた市場が、10年後も魅力的であるとは限りません。だからこそ、事業立地は「決めるもの」ではなく、「進化させ続けるもの」と考えることが重要です。
経営者の仕事は、目の前の仕事をこなすことだけではありません。会社が最も価値を発揮できる市場を見つけ、そこへ経営資源を集中させることです。
◎「どこで戦うか」が変われば、「誰と戦うか」が変わります。
◎「誰と戦うか」が変われば、「利益の出し方」が変わります。
◎そして、「利益の出し方」が変われば、会社の未来は大きく変わります。
事業立地の転換とは、新しい事業を始めることではありません。自社の価値が最も輝く場所を探し続けることです。その視点こそが、変化の時代を乗り越える中小企業の競争力につながるのではないでしょうか。

