【経営コラム】持続可能な働き方への転換を
2026年労基法改正、その方向性を見据えて
2026年を目途に政府が進める労働基準法の抜本的見直しは、単なる制度改正を超えたインパクトを私たち中小企業経営者に与えるものとなるでしょう。連続勤務の上限規制、勤務間インターバルの義務化、有休取得時の賃金算定の統一、副業・兼業との向き合い方の見直し、さらには「つながらない権利」の制度化まで、これらの改正は、まさに“人”を中心に据えた経営”への転換を私たちに促しています。
以下では、迫りくる制度改正を単なる義務としてではなく、「競争力の源泉」として捉えるための視座を提示します。
1.「時間」より「成果」で評価する文化へ
これまで多くの企業では、「長く働く」ことが熱意や忠誠心の証とされてきました。しかし、勤務間に11時間以上の休息を義務づけるインターバル制度や、14日以上の連続勤務の禁止といった改正の方向性は、明確に「働く時間」よりも「働く質」を重視する未来を示しています。
中小企業こそ、限られたリソースの中で最大の成果を上げる工夫が求められます。属人化された業務の棚卸し、業務プロセスの見える化、ITツールの活用による生産性向上は、もはや選択肢ではなく必須課題です。時間に依存しないマネジメントへと舵を切ることが、労務リスクの回避と利益の最大化を同時に実現します。
2.「健康経営」は人材確保の切り札に
働き方の見直しは、法令順守だけでなく、「選ばれる企業」になるための必須条件でもあります。近年、求職者が企業に求めるものは報酬や安定性だけでなく、「安心して働ける環境」に重きが置かれています。
休日を明確に定めることや、勤務時間外の連絡を制限する「つながらない権利」の尊重は、従業員の心身の健康だけでなく、企業への信頼感とエンゲージメントの向上に直結します。法改正に先んじて、健康管理を経営課題として捉えた取り組みは、採用市場でも他社との差別化につながるでしょう。
3.副業・兼業・フリーランスとの関係性を再定義する
働き方の多様化に伴い、「業務委託」や「フリーランス」といった非正規的な関係性が増加しています。しかし、改正案では、「名ばかり業務委託」や「偽装請負」への警鐘が鳴らされており、契約上は業務委託であっても、実態が“労働者”に該当すれば労基法の適用対象となる可能性がある点に注意が必要です。
さらに、副業・兼業者の労働時間通算や割増賃金の扱いに関しても、企業間での責任分担や管理体制が問われることになります。契約書の整備はもちろん、業務の指示範囲、勤務実態の記録などを含めて、法令と整合性の取れた運用体制の構築が急務です。
4.中小企業だからこそ、変化への“即応力”を武器に
大企業に比べ、組織規模が小さい中小企業は、意思決定のスピードと柔軟性において優れています。つまり、制度改正に対して「いち早く対応すること」自体が、競争力の源泉となり得ます。
例えば、今のうちから就業規則を見直し、インターバル時間の設定や休日の明確化、有休の取得ルールなどを整備しておくことで、制度施行時に慌てることなく対応できます。さらに、従業員との対話を通じて制度設計を行えば、社内の信頼関係を深める好機にもなります。
2026年の法改正は、ただの「義務」ではありません。それは、私たちが目指すべき「持続可能な企業経営」と「働く人を大切にする企業文化」への扉を開くものであり、そのチャンスをどう活かすかが、これからの経営者の力量です。
目の前の制度改正を超え、次世代に選ばれる企業へ。今こそ、働き方の再設計に取り組む絶好のタイミングです。

