【実践コラム】借りられる時に借りる」戦略が中小企業を救う
倒産を回避できたA社の事例を紹介します。
中小企業の経営者にとって、資金繰りの安定は事業継続の生命線です。当事務所では一貫して「借りられる時に借りられるだけ借りておく」ことをファイナンス戦略の基本と推奨しています。その理由を、実際の支援事例をもとに改めてご紹介します。
■ A社のケース
A社様とのご縁は、会社設立のサポートから始まりました。設立後は税務顧問として、さらに財務部長代行として資金管理もお手伝いしてきました。A社様は、手形割引を活用しながらも、毎月2,000万円ほどの預金残高を維持。資金繰りに窮することなく経営されていましたが、売上の多くをスポット取引に依存していたため、社長様は常に将来の売上減少に対する不安を抱えていました。
■ 「今は困っていない」時こそ備えるべき理由
設立間もない企業が急な資金ショートに直面した場合、銀行がすぐに融資をしてくれるとは限りません。A社様も「今すぐ必要ではないが、将来のリスクに備えたい」との思いから、既存の銀行以外にも2行と新たに合計1,500万円の融資取引を開始しました。
その後、業績は順調に推移し、2期目には売上高4億円を達成。これを受けて、主要取引銀行から7,000万円の大型融資提案がありました。資金使途に明確な予定はなかったものの、金利は1%未満。年間コストは約50万円(月4万円)という条件でした。
「今は必要ない資金」を借りるかどうか、社長様と慎重に検討した結果、「借りられる時に借りておく」という原則に従い、融資を受ける決断をしました。
■ 危機は突然やってくる
融資実行から半年後、不良品を出してしまったことが原因で最大の取引先から突然の取引停止を受け、月2,000万円、3か月で計6,000万円の売上を失いました。もし手元資金が2,000万円だけだったら、資金繰りは即座に行き詰まっていたでしょう。しかし、1億円のキャッシュポジションがあったことで、冷静に状況を分析し、再開交渉や新規開拓などの対策に十分な時間を確保できました。結果、3か月後には取引が再開し、事業は無事に継続できました。
社長様も「余裕資金があったからこそ、慌てずに対応できた」と振り返っておられます。
■ 借金推奨ではなく自己防衛策
「借りられる時に借りる」というのは、単なる借金の奨励ではありません。中小企業は資金調達力が弱く、いざという時に銀行が融資をしてくれるとは限りません。だからこそ、平時にこそキャッシュポジションを高めておくことが、経営の安心と事業継続の保険になります。
高いキャッシュポジションを維持するためには、銀行対応や資金管理に精通した財務責任者の存在が不可欠です。当事務所では、こうした財務戦略の立案・実行を一貫してサポートしています。資金調達やキャッシュマネジメントに不安を感じている経営者の皆様、ぜひ一度ご相談ください。