【経営コラム】未来人材ビジョン!(その2)
企業は人に投資せず、個人も学ばない。「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人も「転職や起業」の意向を持つ人も少ない!
…前回号のつづきです。
未来人材ビジョン(経済産業省、令和4年5月)について、前回号につづけて要点のみ引用して解説いたします。
■雇用と人材育成について
かつて日本型雇用システムは、大量生産モデルの製造業を中心に競争力の源泉と言われた。日本型雇用システムは、右肩上がりの経済成長の下で、長期雇用を前提に長期的な視点に立って人材育成を行い、組織の一体感の醸成や、企業特殊的な能力の蓄積に寄与した。また、長期雇用を前提として定着した新卒一括採用により、一時的な例外期を除けば多くの学生が卒業後に就職できる傾向があり、若年失業率は低い水準に収まるなど、社会の安定につながっていた。しかし、我が国の経済成長が鈍化し、日本企業特有の賃金・人事制度の前提とされていた「成長の継続」が見込めなくなった結果、1990年代からは、日本型雇用システムの限界が指摘されてきた。90年代以降、日本型雇用システムの変革が模索されてきたが、働き手と、組織は、この30年でどうなったか。
・日本企業の従業員エンゲージメントは、世界全体でみて最低水準にある。
・「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ない。
・しかし、「転職や起業」の意向を持つ人も少ない。
・日本は、課長・部長への昇進が遅い。日本企業の部長の年収は、タイよりも低い。
・「転職が賃金増加につながらない」傾向が強い。
・4割以上の企業は、「技術革新により必要となるスキル」と、「現在の従業員のスキル」との間のギャップを認識している。
・企業は人に投資せず、個人も学ばない。
・日本の人材の競争力は下がっている。
・日本企業の経営者は、「生え抜き」が多く、同質性が高い。
・役員・管理職に占める女性比率が低い。
・東証一部上場企業の合計時価総額は、GAFAM5社に抜かれた。
・日本の国際競争力は、この30年で1位から31位に落ちた。
この現実を直視するなら、企業にはいま、雇用・人材育成システムの聖域なき見直しが求められているのではないか。具体的には、終身雇用や年功型賃金に代表される「日本型雇用システム」と社外との接続領域である「採用戦略」をどうするか、である。既に一部の企業では、相当程度変わってきた現実もあるかもしれない。しかしまだ十分ではない。変化を、加速させる必要がある。
・人的資本経営により、働き手と組織の関係は、「閉鎖的」関係から「選び、選ばれる」関係へと変化していくべき。
・人的資本経営は、スタートアップの方が既に実践に移せていることも多い。スタートアップから学ぶことが多いのではないか。
・日本型雇用システムの起源は、公務員の人事制度にあるのだから、公務員の人事制度も変わっていくべきであり、むしろ先に変わっていくべきではないか、との意見もあった。
・人的資本経営という変革を通じて、日本社会で働く個人の能力が十二分に発揮されるようになれば、日本社会がより一層、キャリアや人生設計の複線化が当たり前で、多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会へと、転換していく。
・大企業の採用手法は、新卒一括採用だけでなく、中途採用、通年採用、職種別採用、ジョブ型採用など、多様化や複線化が進みつつある。
・自社が求めるスキルや能力を明確化し、それに見合った処遇を行う企業が増加している。
・最初は無限定正社員で働き、キャリアを積んだ後、ジョブ型雇用に転換していくという考え方も出てきている。
・これからの採用シーンでは、新卒一括採用が相対化されていく。「何を深く学び、体得してきたのか」が問われる、多様で複線化された採用の「入口」になるはずである。
・学生の就業観が早期に培われるインターンシップの重要性が増している。
・外国人は、日本で長く働き続けてくれない。地域社会は、人手不足を克服しなければならない。
2050年目線では、仮想空間上のアバターや遠隔操作するロボット、人の身体的能力や知覚能力を拡張する技術が普及する中、付加価値の源泉や労働形態のあり方が根本から変わるだろう。
それは、身体や脳、空間や時間の制約がなくなっていく過程でもある。その過程では、「働くこと」の意味や「組織」の意味付け自体が問い直され、働き方を規律する法体系やセーフティーネットの在り方も根本から見直される可能性がある。
こうした未来への備えとしては、働き手の自律性を高める方向性がやはり望ましい。
現状の日本の雇用と人材育成について、的確に分析・整理されています。
●未来人材ビジョン!全文
https://onl.bz/bkZQrRM
…次回号につづく