【実践コラム】説明の仕方で調達の結果が大きく変わった事例

資金調達が上手くいかない要因のひとつに説明不足があります。

創業当初からお付き合いさせていただいているA社の事例です。5期目の決算が終わったところですが、売上高が約7億円と順調に成長しています。

A社の特徴的な点は、外部からの借入が無く、代表者個人からの借入金1億円で資金を繰り回している点です。創業時に創業融資をおすすめしましたが、「自己資金で対応するので借入れはしない。」という経営方針であったため、これまでは税務顧問のみのお付き合いとなっていました。

毎期順調に売上高を伸ばしてきましたが、それと同時に役員借入金の額も増加し続け、ついに役員借入金が1億円を超えた時点で、社長より次の主旨のお電話がありました。

  • いよいよ自己資金も尽きてきたので借入を考えたい。
  • 金額は、今後事業をさらに伸ばすための資金で1億円、個人で貸している分を返してもらうために1億円、あわせて2億円を調達したい。
  • 預金取引をしている信用金庫に行って融資を依頼したが、短期で1,000万円しか融資ができないと言われた。
  • 税務だけでなく資金調達を含めた財務面も見てもらえないか。

どこの金融機関も新規取引は慎重になります。A社は金融機関との融資取引が全くありませんので、すぐに2億円を調達するのは簡単ではありません。まずは、今期中に1億円、次の決算後に1億円を調達する計画で資金調達を開始しました。

まず、今後の業績見込みとそれに伴う1億円の資金計画を作成し、I地銀に保証協会とプロパー融資の打診をしました。I地銀は保証協会から無担保枠一杯の8,000万円の事前承認を取り付けてくださいましたが、「プロパーは来期の決算後に・・・」という回答でした。保証協会の8,000万円だけで終わりとなっては困るため、I地銀には、5,000万円だけ保証付融資を申し込み、3,000万円の枠を残すことにしました。

次にBメガバンクに保証協会とプロパーの打診をしました。保証協会で3,000万円の承認がおりている旨をご説明してプロパーの積み上げを依頼したところ、保証協会3,000万円とプロパー2,000万円で提案をいただきました。

2行で目標額1億円の調達は完了しましたが、日本政策金融公庫の無担保枠2,000万円も利用できると考えて打診しました。事業計画は1億円の調達目標であるが、本来は2億円の調達をしたい旨をご説明したところ、「通常は2,000万円が無担保枠の上限だが、制度融資によって4,800万円まで利用できるものがある。そちらを利用して4,000万円でどうか。」という提案をいただきました。

続いて商工中金、中小企業事業にも打診を考えており、順調にいけば今期中に2億円の調達が見えてきました。

本来は1億円以上の調達が可能な実力があるにも関わらず、社長様が自身で信用金庫に行くと1,000万円の短期融資しかできないと言われたのはなぜでしょうか。答えは単なる説明不足です。

A社は、売上高は順調に推移してきたものの、利益が出始めたのは2期前からであり、表面は債務超過です。実質自己資本と見做せる代表者からの借入金が1億円ありますが、30代で1億円の個人資産を持っているのは逆に不審に思われることもあります。

弊所は、社長の略歴、企業の沿革、資金繰りの状況と計画、利益の状況と計画を整理して、金融機関に説明しただけです。決して金融機関と特別なパイプがある訳ではありません。説明の仕方ひとつで結果がこれだけ変わることがあります。