【経営コラム】忙しい社長ほど、会社は伸び悩む
「イン・ザ・ビジネス」という落とし穴
中小企業の経営者とお会いすると、多くの方が「毎日忙しくて、経営を考える時間がない」と話されます。営業に出向き、見積書を作成し、社員の相談を受け、取引先と価格交渉を行い、資金繰りに頭を悩ませる。経営者というより、一人で何役もこなす「万能選手」として会社を支えている姿を目にします。
その努力には頭が下がります。しかし、私は長年、中小企業の経営に携わる中で、一つの共通点に気づきました。忙しい社長ほど、会社は伸び悩む。これは決して、働くことを否定しているのではありません。問題は、経営者が「事業の中で働くこと」に時間を費やし過ぎていることです。
経営学ではこの状態を、「イン・ザ・ビジネス(In the Business)」と呼びます。
イン・ザ・ビジネスとは、事業の現場に深く入り込み、自らがプレーヤーとなって会社を回している状態です。もちろん、創業期や会社の危機には、経営者自ら先頭に立たなければならない場面があります。しかし、それが常態化すると、経営者は現場の責任者にはなれても、会社全体を導く経営者ではいられません。
社長が営業部長を兼ね、工場長を兼ね、経理部長を兼ね、人事担当まで務めている会社は少なくありません。その結果、すべての判断が社長に集中し、社員は指示待ちになり、組織は社長への依存を強めていきます。
「社長がいなければ会社が回らない。」その状態を、多くの経営者は「責任感」と受け止めています。しかし、それは本当に健全な経営なのでしょうか。会社とは、本来、一人の能力に依存するものではありません。組織として継続的に価値を生み出す存在であるはずです。
経営学者ピーター・ドラッカーは、「効率(Efficiency)」と「有効性(Effectiveness)」を区別しました。
・効率とは、「物事を正しく行うこと」。
・有効性とは、「正しいことを行うこと」。
現場の仕事を効率よくこなすことは重要です。しかし、経営者の仕事は、それ以前に「何が正しいことなのか」を見極めることにあります。どれほど効率よく走っても、進む方向が間違っていれば、目的地にはたどり着きません。忙しさは、経営の成果ではありません。むしろ忙しさによって、会社の未来を考える時間を失っているとすれば、それは経営者にとって最も大きな機会損失と言えるでしょう。
経営者が考えるべきことは、今日の売上だけではありません。三年後、五年後、十年後、自社はどのような価値を提供しているのか。市場はどう変化するのか。顧客から選ばれ続ける理由は何か。利益はどこから生まれ、どこで失われているのか。こうした問いに向き合う時間を持つことこそが、経営者本来の役割です。
仕事をすることと、経営をすることは違います。この違いを意識したとき、初めて経営者の視点は現場から未来へと移ります。
次回は、その未来を創る経営のあり方として、私が提唱する「オン・ザ・ビジネス」という考え方について解説いたします。

