【実践コラム】黒字の計画なのに、なぜ資金が回らないのかについて

ある新規事業の計画から、キャッシュが寝るという現象を見ていきます。

9月は、銀行交渉と融資実務をテーマにお話ししていきますが、その入り口として、今回は1つの事例から始めます。融資が必要になる場面の多くは、この事例と同じ構造を持っているためです。

ある会社の話です。もともと資金繰りに余裕のないA社が、業績と資金繰りを立て直そうと、新規事業に乗り出しました。中国から商材を輸入し、国内で販売する事業です。年間の売上計画は1億円。原価率は5割ですので、単純な粗利で見れば5,000万円が残る計算で、計画書の上では十分に魅力的な事業に見えました。

ところが、取引条件を並べてみると様子が変わってきます。仕入れは現金100%の先出しでした。商材を受け取る前に代金の全額を支払わなければなりません。一方の販売は末締めの翌月15日入金で、売ってから現金が入るまでには最大45日かかります。さらに、輸入した商材はすぐに売れるわけではなく、在庫として平均1か月ほど倉庫に滞留します。

この条件を、利益ではなく資金の流れで追ってみます。月の平均売上はおよそ830万円、その原価は約417万円です。仕入れは現金先出しですから、この約417万円分の商材は、売れて現金に変わるまで在庫として寝続けます。加えて、売った後も入金まで最大45日かかりますので、月商の1.5か月分、およそ1,250万円が売掛金として未回収のまま残ります。買掛金による資金の後ろ倒しは、現金先出しのためゼロです。

在庫で約400万円、売掛金で約1,250万円。合わせておよそ1,650万円もの資金が、事業を回している間、常に寝たままになります。これは一度用意すれば済むお金ではありません。売上が続く限り、この1,650万円は現金に戻っては次の仕入れと売掛に姿を変え、手元を離れ続けます。1億円を売るために、常時1,650万円の資金を事業に張りつけておく必要がある、ということです。

ここで最初の問題に戻ります。A社は、もともと資金繰りに余裕のない会社でした。その会社が、常時1,650万円を寝かせ続ける事業を始めたわけです。計画上の利益がどれだけ大きくても、その資金を用意し、維持し続けられなければ、事業は途中で止まります。皮肉なことに、売れれば売れるほど仕入れと売掛が膨らみ、資金はさらに寝ていきます。売上の拡大が、そのまま資金繰りの悪化に直結する構造です。

A社の計画に欠けていたのは、利益の見通しではありません。事業計画は、売上と原価と利益で組まれていました。抜け落ちていたのは、その事業がどれだけの資金を寝かせるのか、その資金をどこから用意するのかという、キャッシュの視点です。事業計画とは別に資金繰り表を1枚作っていれば、1,650万円という数字は事前に見えていました。

この事例が示しているのは、事業計画と資金繰り表は別物だということです。損益がどれだけ黒字でも、必要な運転資金を用意できなければ事業は回りません。そして、その運転資金をどう手当てするかを考える段階で、初めて金融機関との具体的な相談が必要になります。A社の場合も、事業に乗り出す前にこの構造が見えていれば、常時1,650万円の運転資金をどう調達するか、あるいはそもそも条件を変えられないかを、落ち着いて相談できたはずです。

9月は、こうした場面で金融機関に何をどう伝えれば話が進むのか、銀行交渉と融資実務を具体的に整理していきます。今回のA社のように、必要な運転資金が数字で見えていることが、その第1歩になります。