【実践コラム】金融機関とのやり取りの鍵
金融機関の期待に応える回答を用意してください
ある企業様の資金調達交渉の場面に同席させていただきました。その際の体験を通じて、金融機関対応の重要なポイントを共有したいと思います。
該当企業は、ウェブサービスを開発・販売する会社で、以下のような財務状況です。
・売上高:約2億円
・経常利益:約700万円
・減価償却費:250万円
・簡易キャッシュフロー:900万円
・借入残高:約80000万円
・資金調達目標:1億円(主に広告宣伝費用途)
金融機関は返済能力、具体的には「簡易キャッシュフロー」に最も重きを置きます。売上高が増収基調で資本超過という前提ですが、もし同社の簡易キャッシュフローが2,000万円以上あれば、決算書をお渡しするだけで交渉は終わりです。理由は、簡易キャッシュフローが2,000万円あれば、既存借入8,000万円と新規借入1億円の返済が十分に可能であると判断できるラインだからです。
しかし、この会社の簡易キャッシュフローは900万円と、この基準を満たしていません。そのため、計画書の詳細な説明が必要になりました。
計画の内容は、資金を広告に投じることで売上を大幅に増加させる一方で、広告費用の増加により、翌期と翌々期は大幅な赤字になるというものでした。この計画書を見た金融機関の担当者は明らかにネガティブな反応を示しました。
金融機関の担当者が確認したいのは、極論を言えば、借入の返済が出来るかどうか、資本超過の状態を保てるかどうかの2点です。大幅赤字の計画書では、返済が出来ないということ、債務超過に陥ることを表明されたのと同じです。
金融機関の考え方に配慮するならば下記の追加補足が必要です。
■ 売上の質が良質であること。
同社の売上高は、一度顧客になれば毎月継続して収入を得ることができる継続課金型の売上です。解約率も数%であることから一度獲得した売上高は向こう数年に渡って継続する可能性が高いです。最初に広告費で赤字になっても、一度顧客になれば、それ以降は広告費を0円にしても継続する良質な売上であることを理解してもらう必要があります。
■ 広告費はコントローラブルであること。
現在でも新規顧客獲得のための広告を止めれば、利益は倍増する状態です。よって、1億円を広告費に投入する計画ですが、目標としている広告効果が得られない場合は、直ちに広告を止める考えも一方で持ち合わせており、黒字化はある程度コントロール可能な状態であることを理解してもらう必要があります。
■ 赤字の先に簡易キャッシュフローの増加が見込まれること。
2年間先行投資を続けた後には、返済が十分に可能なキャッシュフローが見込まれることを説明する必要があります。
■ 赤字の間の返済原資を示すこと
現預金の全部を先行投資に使う訳ではもちろんありませんので、資金繰り表を作成し、現在の手元資金により赤字の間でも返済が可能であることを示す必要があります。
■ 資本超過を維持できること
事業計画書に純資産の推移も追加し、財務の健全性を意識した経営を行っており、自己資本の範囲内での投資を考えていることを説明する必要があります。
事業計画は、計画通りに進められる資金があって初めて計画となり得ます。そのためには、自身がやりたいと思う計画だけでなく、資金面でのパートナーである金融機関にも同意を得られる計画である必要があります。
金融機関の同意が得られる計画書を作成するには、金融機関の考え方を理解している必要があります。金融機関を巻き込んで積極的に事業を拡大したいとお考えの経営者様は、是非、弊所にお声がけください。