【実践コラム】中小企業の財務について(その3)

財務指針を持ち、金融機関と共有しましょう。

中小企業における財務の強化方法についてシリーズでお伝えしております。第1回目は、「試算表」を作成することの重要性を、続く第2回目は、「資金繰り表」を作成することの重要性をお伝えしました。3回目となる今回は、「中小企業が実践すべき財務戦略」について解説致します。

試算表や資金繰り表は、それ自体は単なるデータであり、財務に関する明確な指針を持って初めて価値あるものに変わります。弊所では、「手元キャッシュをより多く持つ」ことを、中小企業の財務指針として推奨しています。

手元キャッシュを厚くする主な理由は、「キャッシュが切れない限り倒産することはない。」「キャッシュに余裕があれば不測の事態が起きても落ち着いて対処できる。」「キャッシュがあれば千載一遇のビジネスチャンスを逃さない。」ためです。経営の目的を達成するために、キャッシュは絶対に欠かせない要素のひとつです。

しかし、「元々潤沢な自己資金を持っている。」もしくは、「毎月キャッシュが余るほど大きな利益を上げている。」のでなければ、そう簡単に手元キャッシュを厚くすることはできません。手元キャッシュを増やす最も現実的な方法は、「借入を最大限活用する。」ことです。

借入を嫌う経営者も多いですが、そこには、困った時だけ金融機関に頼ればよいという錯覚があります。金融機関はこちらの都合で融資をしてくれません。不測の事態が起きた時、千載一遇のビジネスチャンスに出会った時、都合よく融資を受けられるとは限らないのです。

中小企業の金融機関との正しいお付き合いの仕方は、自社のタイミングで融資を受けにいくのではなく、金融機関側のタイミングで融資を受けて手元にキャッシュを置き、必要な時にそのキャッシュを使うというのが正解です。今すぐ必要でない資金を借りるデメリットは余分な金利を払うことですが、いざという時に融資を受けられないリスクに比べれば小さな問題です。借入が増えると財務内容が悪くなると考える方もいらっしゃいますが、借入と同時にキャッシュも増えますので、実質的な借入額が増える訳ではありません。

「借入を活用して手元キャッシュをより多く持つ。」ことの重要性にご賛同いただけたならば、次は、「どうすれば金融機関から最大限の融資を受けられるか。」という課題にお気づきになるのではないでしょうか。金融機関から最大限の融資を受けるためには、自社の財務状況を定期的に金融機関に開示し、融資が可能であれば、いつでも提案を持ってきてもらえる関係を構築する必要があります。

試算表や資金繰り表は金融機関とのコミュニケーションツールです。試算表や資金繰り表の提出なしに金融機関と円滑な関係を構築することは出来ませんので、まずは、毎月しっかりと作成しましょう。さらに、「キャッシュをより多く持つ。」という財務指針も金融機関と共有出来れば、財務はより強固なものになります。