【実践コラム】事業承継を目的とした株価の引き下げについて
税金対策が会社の未来を脅かすことがあります。
中小企業の事業承継において、退職金支給による株価引き下げは一般的な手法ですが、財務面での課題を生む可能性があります。直近の事例を元に解説致します。
先日、ある企業から資金調達の相談を受けました。約1年前に義理の父から会社を引き継いだものの、お金を借りることができずに困っているということです。
会社の財務状況を見てみると、借金が多く、自己資本がマイナスになっていました。これでは銀行もお金を貸しにくい状況です。なぜこうなったのか調べてみると、前の2年間で合計5,000万円の退職金が支払われていました。そこにコロナの影響で業績が悪化し、今の厳しい状況になったようです。
話を聞くと、前社長は退職金を欲しがったわけではありませんが、会社の株を引き継ぐために株価を下げる必要があり、あえて退職金を払い赤字を出したそうです。
会社を子どもや従業員に引き継ぐ際、社長を変えるのは比較的簡単です。しかし、株主が変わらなければ、新社長は「雇われ社長」のままです。本当の意味で事業承継を完了させるには、株式も一緒に引き継ぐ必要があります。
ところが、株式には決まった価値があるため、簡単には譲れません。この会社の場合、株式の価値は元々5,000万円ほどあったそうです。新社長が個人的に5,000万円で株を買うか、贈与を受ければ良かったのですが、税金を払いたくなかったため、税理士さんと相談し、株価をゼロにして無償で譲る方法を選びました。
確かに、この方法で税金は最小限に抑えられました。しかし、新社長は借金もできない弱った会社を引き継ぐことになったのです。
株価を下げて後継者に株を譲る方法は、中小企業の事業承継でよく使われます。しかし、株価を下げるということは、会社の価値そのものを下げることになります。当然、銀行から見ても魅力的ではなくなります。
中小企業にとって、銀行との関係はとても大切です。事業承継後も銀行と良い関係を続けることが会社にとって最も重要だと考えるなら、多少の税金を払ってでも会社の価値は下げない、という考え方も必要かもしれません。
事業承継を考える際は、税金のことだけでなく、会社の財務状況にも目を向けることが大切です。将来の成長のために、どちらを優先すべきか、よく検討しましょう。